越谷山人鱗斎一魲『狂歌百人一首泥亀の月』・南柯堂・越谷吾山・江沢昭鳳(一楽)・郷土越谷写真集

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越谷山人鱗斎一魲『狂歌百人一首泥亀の月』

▲昭和五十三(1978)年一月一日　No.560　「広報　こしがや」　越谷市役所企画部広報(編)　より
※註　当時10歳(小学4年生)の筆者が収集

①「越谷山人」の署名や「鱗斎」の落款のある掛軸や画賛

佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)　pp.1117-1119
において、
「越谷山人」の署名や「鱗斎」の落款がある掛軸や画賛の紹介がされた。

　１．　天保四癸巳孟春改刻　保永堂述者越谷山人

　　の奥書のある『戲戯劇百人一首闇夜礫』(木版刷による刊本)　(1833)

　２．　丁亥春越谷山人時七十有二

　　と書かれ、「鱗斎」の落款のある画賛　(1827)

　３．　越谷山人時年七十有一　酩酊画賛

　　と書かれ、「鱗斎」らしき落款のある画賛　(1826と推定)

　４．　文政十丁亥文月　越谷山人南柯堂鱗斎時七十有二

　　と書かれ、越ヶ谷宿の孝子文太郎に関する賛文のある掛軸　(1827)

　５．　七十一翁越谷山人

　　と書かれた登戸村の名主関根氏の母堂に関する画賛　(1826と推定)

　６．　文政己丑秋越谷山人年七十有四謹画

　　と書かれ、「鱗斎」らしき落款のある画賛　(1829)

　７．　越谷山人時年七十有六謹画

　　と書かれ、芭蕉の肖像と句のある掛軸　(1831と推定)

　８．　文政庚寅夏六月五日　越谷山人時年七十有五謹書

　　と書かれた画賛　 (1830)

②「越谷山人」と「越谷吾山」の生年の相違

　１．越谷山人

佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)　p.1119
において、
「越谷山人」は掛軸や画賛に署名されている年齢により、宝暦五亥(1755)年の生まれと推定された。

　２．越谷吾山

佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)　p.1113
において、
「越谷吾山」は「法久院」霊名簿、会田家位牌等により、享保二酉(1717)年頃の生まれと推定された。

③「越谷山人」の生没年の推定

山本廣子(2009)　『狂歌百人一首泥亀の月を読む』　武蔵野書院　p.134,135
において、
「越谷山人」の生没年が推定された。

　１a．「越谷山人」の生年(宝暦五亥(1755)年説)

越谷市立図書館蔵の孝子文太郎を称えた散文には、

　文政十亥秋文月　時年七十有二

とあり、生年は宝暦五亥(1755)年となる。
これは東北大学図書館狩野文庫蔵『狂歌百人一首闇夜礫』に、

　天保癸巳征月　七十八翁　越谷山人南柯堂九界一魲　(1833)

と記された著述年と年齢に一致する。

　１b．「越谷山人」の生年(宝暦四戌(1754)年説)

大沢町秦野家所蔵巻物(模写)の奥書には、

　天保甲午皐月　八十翁越谷山人　(1834)

とあり、生年は宝暦四戌(1754)年となる。
これは東洋大学図書館蔵『狂歌百人一首闇夜礫』に、

　文政戊子臘月　越谷山人南柯堂九界一魲　時年七十有四　(1828)

と記された著述年と年齢に一致する。

　２．「越谷山人」の没年

没年は不明ながら、大沢町秦野家所蔵巻物(模写)の奥書によれば、少なくとも天保五甲午(1834)年
までは健在であり、
天保六乙未(1835)年に書いた版本『闇夜礫』の跋では、

　乙ひつし　鱗斎鱸

としていることから、宝暦五亥(1755)年に生まれたと仮定すると、天保六乙未(1835)年の八十歳
までは生存したことになると推定された。

④『国書総目録』の誤り

冨倉祐子(1999)　「越谷吾山-その生涯と俳諧(4)」　『埼玉史談第46巻第2号』
において、
「鱗斎」という落款を手がかりに没年を比較し『国書総目録』の誤りを指摘した。

越谷吾山の書で「鱗斎」の落款のある書はないが、越谷山人には

　文政十丁亥文月、越谷山人南柯堂鱗斎時七十余二　(1827)や、

　文政己丑秋越谷山人七十余四謹画　(1829)　

と記された掛軸や画賛があり、
天保四巳(1833)年刊の『狂歌百人一首闇夜礫』に、

　天保四癸巳孟春改刻保永堂述者越谷山人

及び「鱗斎」と判読出来る落款があることなどから、これらの掛軸や画賛、狂歌を残した越谷山人と、
天明七未(1787)年に没した越谷吾山とは別人であると結論づけた。

岩波書店より昭和三十八(1963)年から昭和五十一(1976)年にかけて刊行され、平成元(1989)年には
「増補版」が刊行された『国書総目録』には

『狂歌百人一首泥亀の月(自筆)』　(著)会田秀真(越谷山人)詠・画　(成)宝暦六

と記載されている。越谷吾山は『翌檜』等で秀真を名のり、会田は越谷吾山の姓である。
しかし、冨倉祐子氏が「都立図書館特別文庫室」蔵の『狂歌百人一首泥亀の月(自筆)』を閲覧し、

　丙子の春日　越谷山人　鱗斎一魲戯画

の記載を自叙の最後に確認したが、これ以外にこの書中に作者名や年記はなく、この書の表紙裏に
所蔵者であった鈴木半右氏が昭和三(1928)年五月に記した

　　此書序文丙子春日トアルハ宝暦六年ナルベシ筆者越谷山人ハ武州越ヶ谷ノ人會田氏名ハ秀眞
　　師竹庵古馗庵吾山ト号す(以下略)

との但書が添付されているのみであった。
故に、越谷山人が著者会田秀真である根拠はなく、「鱗斎」の文字により天明七未(1787)年以降も
生存した越谷山人と同一人物であり、「丙子」は宝暦六丙子(1756)年ではなく、文化十三丙子(1813)
年であると結論づけた。

⑤『大沢町古馬筥』の朱書き

佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)　p.1119
において、
大沢町の世襲名主江沢昭融が、天保十一子(1840)年九月頃に著したとみられる『大沢古馬筥』には、

　江沢一楽は越谷山人なりとの朱書きが付されてある

との一文があり、これを検証したのが、
山本廣子(2009)　『狂歌百人一首泥亀の月を読む』　武蔵野書院　p.133,134
である。
山本廣子氏は「西尾市岩瀬文庫」蔵の『大沢町古馬筥』を閲覧したが、

　江沢一楽は越谷山人なり

との朱書きを確認出来ず、江沢昭融の父である江沢昭鳳(「一楽」を号す)が、越谷山人であるとの
確証は保留となった。
また、大沢町の世襲名主江沢氏の菩提寺であった大沢町光明院には、江戸時代の過去帳の類は存在
せず、墓石も無縁仏となり一切が不明である(註：筆者も平成21(2009)年4月2日、光明院にて確認)。

⑥越ヶ谷宿と大沢宿

佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)　p.1119
において、
越ヶ谷新町松本宗平氏の祖父庄次郎氏の話として、

　山人は、越ケ谷宿の生まれで、しばしば江戸に往復し、狂歌や俳画に秀でた人であった

という逸話が紹介されているが、当時越ヶ谷宿と大沢宿は二つの宿をもって越ヶ谷宿として機能
していた為、大沢宿のある大沢町の世襲名主であった江沢昭鳳(「一楽」を号す)が、越ケ谷宿の
生まれとして伝承されていたとしても矛盾はないと思われる。

※謝辞　ＮＰＯ越谷市郷土研究会　加藤幸一副会長より
山本廣子(2009)　『狂歌百人一首泥亀の月を読む』　武蔵野書院
の文献及びその内容の紹介を頂きました。

▲「天保甲午皐月　八十翁越谷山人」
(大沢町秦野家所蔵巻物(模写))奥書

※　参考文献		山本廣子(2009)　『狂歌百人一首泥亀の月を読む』　武蔵野書院
		冨倉祐子(1999)　「越谷吾山-その生涯と俳諧(4)」　『埼玉史談第46巻第2号』　pp.7-9
		佐藤久夫・小沢正弘・竹内　誠(1975)「越谷の文化」『通史上』(越谷市史一巻)
		p.1113,pp.1117-1119